前回記事では、東茅街茶館で長沙の市井文化に触れ、文和友で90年代の街並みを体験した。
今回のレトロ食堂巡りの最終回は、場所を長沙から少し離れ、張家界へと向かう。
張家界といえば、映画『アバター』のモデルとなった幻想的な景観で知られる世界的な観光地だ。その武陵源景区近くに、1973年の漁村を再現したレストラン「大隊老漁村1973」がある。
ここは単なるレトロ空間ではない。実際に1973年に建てられた建物を改装し、70年代の湘西(湖南省西部)の農村生活をそのまま再現した、没入型レストランだ。湖南卫视(湖南テレビ)の人気番組『花儿与少年』のロケ地としても使われ、多くの芸能人が訪れることでも知られている。
大隊老漁村1973とは――本物の村落を改装したレストラン

大隊老漁村(大队老渔村)1973は、張家界市武陵源景区近くに位置する。2021年7月、オーナーの唐江氏がこの1973年に建てられた村落を改装し、レストランとしてオープンさせた。
コンセプトは「土到极致便是野」(土臭さを極めれば野趣となる)。都会の喧騒から離れ、自然と原生態への回帰を求める人々のニーズに応えるため、70年代の湘西農村の雰囲気をできる限り忠実に再現している。
敷地内の植物は武陵源の山から直接掘り出し、石も現地で調達したという。意図的な造園や装飾は一切せず、建物内部の土壁や木の梁もそのまま保存・展示している。全てが「自然のままの野趣」を追求した結果だ。
青空の下、レトロな建物が迎える

12月上旬の昼過ぎ、大隊老漁村に到着した。青空の下、白い壁に「大隊老漁村」の文字が大きく掲げられた建物が目に入る。屋根には赤い星のマークが輝いている。建物の前には色とりどりの提灯が吊るされた木が植えられ、まさに農村の祝祭的な雰囲気だ。

「大隊老漁村」と書かれた大きな看板をくぐり、赤い提灯が連なる通路を進む。昼間の明るい光の中でも、このレトロな雰囲気は十分に伝わってくる。

通路を抜けると、まず目に入るのが注文カウンターだ。カウンターには様々な料理のサンプルが並び、さながら市場のよう。壁一面には黒板のメニューがあり、手書きで料理名と価格が記されている。

そしてその先には、透明な水槽が並ぶ「渔村集市」(漁村の市場)があり、様々な珍しい食材が泳いでいる。
食材選び

鮰鱼(ナマズの一種)、桂花鱼(ケツギョ)、そしてスッポン――日本ではなかなかお目にかかれない食材が、ここでは当たり前のように水槽に入っている。
そして、水槽の中で最も目を引いたのが、大きなオオサンショウウオだった。数匹が水槽の底でゆっくりと動いている。
メニューをどうしようかと悩んでいた時、水槽の中のオオサンショウウオと目が合ってしまった。つぶらな瞳がこちらを見ている。

日本では天然記念物に指定されているオオサンショウウオを食べるという行為に、正直なところ罪悪感があった。しかし中国では食用として養殖されており、合法的に流通しているという。

結局、この出会いに導かれるように、オオサンショウウオを注文することにした。その他、排骨(スペアリブ)も頼む。
酒も選んだ。土家苺茶米酒――土家族の苺を使った米酒だ。様々なバリエーションがあったが、せっかくなので苺を選んだ。
価格はと言うと、中国の物価を考えるとやや高級路線だ。特にオオサンショウウオが高い。全体で一人200元弱、日本円で3000〜4000円程度だろうか。高級食材を扱う観光地のレストランとしては妥当な価格帯かもしれない。
個室へ案内される
注文を終えると、スタッフに個室へと案内された。

個室は1号から23号まで数字で順に並び、全て「队部」(生産隊本部)と命名されている。私たちが通された部屋は、淡い青色の壁に囲まれた落ち着いた空間だった。
室内には農家の円卓、茶棚、古い木製の椅子が配置されている。木の框がついた扉、観音開きの木窓――まるで本当に村民の家に招かれたかのような雰囲気だ。
窓からは外の景色が見える。池のほとりの木製デッキ、茅葺き屋根の東屋、そして遠くに見える張家界の山々。12月の柔らかな日差しが差し込み、心地よい空間だ。
料理を待つ間――館内を散策
料理が来るまでの間、館内を散策することにした。

まず訪れたのが、腊肉を燻製している部屋だ。部屋の前を通った瞬間、濃厚な煙と香りが鼻を突いた。
火塘(囲炉裏)の上空には、油光りした腊肉と腊魚がびっしりと吊るされている。壁には薪が積み上げられ、中央の火塘では今も火が燻っている。肉からは時折油が滴り落ち、濃厚な薪の香りと腊肉の匂いが部屋中に充満している。
興味深いことに、この日はこの燻製部屋がスタッフの休憩所になっていた。シェフらしき白い帽子を被った人々が数名、椅子に座って休憩している。この強烈な煙の中で休憩するとは――スタッフさん自身が燻製されてしまわないか、少し心配になる。

次に訪れたのが、土家(トゥチャ)族の伝統文化を紹介する展示スペースだ。壁一面の棚には、様々な瓶や壺が並んでいる。薬酒や漬物、調味料などが保存されているようだ。赤いラベルが貼られた瓶には、それぞれ中身の名前が記されている。
窓から差し込む光が棚を照らし、ガラス瓶が美しく輝いている。この空間自体が、一つの博物館のようだ。

外に出ると、池を囲む広大な敷地が広がっていた。池のほとりには木製のデッキが設けられ、その上にテーブルと椅子が並んでいる。茅葺き屋根の東屋もいくつか建てられており、その下でも食事ができるようになっている。
背景には張家界の山々が見え、自然に囲まれた環境だ。都会の喧騒から完全に切り離された空間がここにある。
料理が運ばれてくる
さて、個室に戻ると、ほどなくして料理が運ばれてきた。

まず運ばれてきたのは、排骨だ。大きな白い皿に盛られ、赤唐辛子やニンニクと共に炒められている。湯気が立ち上り、食欲をそそる香りが漂う。

次に、赤い鍋に入った料理が運ばれてきた。オオサンショウウオだ。オレンジ色のスープの中に、オオサンショウウオの肉が入っている。見た目はやや衝撃的だが、スープの香りは良い。
そして土家苺茶米酒。瓶を開けると、ほのかに甘い香りが漂う。

小さな杯に注いで一口飲んでみる。見た目は日本酒のように透明だが、味は思いのほか甘い。苺の風味がほんのりと感じられ、米酒の柔らかな口当たりと相まって、飲みやすい。アルコール度数はそれほど高くないようだ。
排骨を一口食べる。外側はカリッと、中はジューシー。ニンニクと唐辛子の風味が効いており、ご飯が欲しくなる味だ。苺茶米酒との相性も悪くない。
オオサンショウウオについては――この味の詳細は、次回の記事で詳しく述べたいと思う。ただ一つ言えるのは、この料理を食べることで、湘西の食文化の深さと、私自身の食に対する価値観について、深く考えさせられたということだ。
まとめ:レトロを超えた文化体験
大隊老漁村1973は、東茅街茶館や文和友とはまた違った形でのレトロ体験を提供している。
東茅街茶館が「日常の再現」、文和友が「記憶のテーマパーク化」だとすれば、大隊老漁村は「文化の保存と継承」だ。単に70年代の雰囲気を再現するだけでなく、土家族の伝統文化、湘西の食文化、そして人々の生活様式そのものを保存し、体験できる場所として機能している。
実際に1973年に建てられた建物を使用し、本物の素材にこだわり、本物の燻製肉を作り続ける――この姿勢が、多くの芸能人や観光客を惹きつけているのだろう。
3回にわたる湖南レトロ食堂巡りを通じて見えてきたのは、中国における「レトロ」の多様性だ。日常の延長としてのレトロ、エンターテイメントとしてのレトロ、そして文化保存としてのレトロ――それぞれが異なるアプローチで、失われつつある過去を現代に蘇らせている。
張家界を訪れる機会があれば、ぜひ大隊老漁村1973を訪れてほしい。70年代の湘西農村の雰囲気の中で、本物の湘西料理を味わう――それは単なる食事ではなく、一つの文化体験なのだから。