イギリスの隠れた名酒「スロージン（Sloe Gin）」とは？気になる味を現地からレポート

イギリスと言えば、多くの人がまず思い浮かべるのはスコッチウイスキーやペールエールでしょう。確かに、これらは世界的に有名なイギリスの酒類です。しかし、この国には知る人ぞ知る、もう一つの魅力的なリキュールが存在します。その名も「スロージン（Sloe Gin）」。今回は、この隠れた名酒について、現地イギリスからじっくりとレポートしていきます。

スロージンの秘密：その名前の由来

「スロージン（Sloe Gin）」という名前を聞いて、ゆっくり（Slow）と時間をかけて作られるジン、あるいはゆっくりチビチビと楽しむジンだと思う方もいるかもしれません。しかし、実はこの「スロー（Sloe）」は英語の「Slow（遅い）」ではありません。「スロー（Sloe）」とは、サンザシの仲間である「ブラックソーン（Blackthorn）」の実のことを指します。この実は「スローベリー（Sloe Berry）」とも呼ばれ、スロージンの主要な原料となっています。

スローベリーの果実。和名はスピノサスモモとも。

スロージンは、この小さな紫黒色のスローベリーを使って作られる伝統的なリキュールなのです。一般的な製法は、ジンにスローベリーを漬け込み、砂糖を加えて熟成させるというもの。アルコール度数は通常25-30%程度で、甘味と酸味のバランスが特徴的な味わいを持っています。

現地での味わい：ブリストル郊外のお城でのルームサービス体験

Thornbury Castleにて

イギリス南西部に位置するブリストル（Bristol）。その郊外にある歴史あるお城を改装したホテルに宿泊した際、私はサービスでスロージンを頂きました。石造りの重厚な壁に囲まれた部屋でくつろぎながらスロージンを楽しむ――これぞまさに「イギリスらしさ」を体感できる贅沢な時間でした（今回泊まったThonbury Castleは、かのヘンリー8世もかつて泊まっていた本物の城。詳細な宿泊レポートについては是非過去記事をご覧ください）。

www.kosupatravel.com

深い紫色を帯びた美しい液体が入ったデキャンタグラス。グラスを傾けると、スローベリーの甘い果実の香りと、かすかなジンの香りが鼻をくすぐりました。

味の感想：予想を裏切る複雑さ

最初の一口で感じたのは、予想以上の甘さでした。しかし、それはべたつくような甘さではなく、むしろ洗練された上品な甘さ。その後に、スローベリー特有の酸味が口の中に広がります。この酸味が、甘さを引き締め、絶妙なバランスを生み出しているのです。

酔いが回らないよう、少しだけ頂きました。

そして、最後に感じるのがジンの香り。ボタニカルな風味が、フルーティーな味わいに深みと複雑さを加えています。全体的には、甘くてフルーティーでありながら、どこか大人の雰囲気を感じさせる、不思議な魅力を持ったお酒だと感じました。

今回は常温ストレート（Neat）で頂きましたが、ゆっくりと味わうにはロック（On the rocks）もおすすめなのだそう。また、トニックウォーターで割ったスロージン・トニック（Sloe Gin and Tonic）も人気があるらしいです。意外とマイルドな味わいのため、お酒に強くない方でもストレートで味わっても問題なさそうでした。

スロージンの歴史と文化的背景

ところで、スロージンの起源は17世紀にさかのぼるそうです。当時、イギリスの田舎では、秋に収穫したスローベリーを保存する方法として、ジンに漬け込むことが一般的でした。これが次第に愛飲されるようになり、19世紀には商業生産も始まりました。

特に、イギリスの上流階級の間では、自家製スロージン（Homemade Sloe Gin）を作ることが一種の伝統となっていたとのこと。今でも、多くのイギリス人家庭では、秋になるとスローベリーを摘みに出かけ、自家製スロージンを仕込む習慣が残っています。

この伝統は、イギリスの田園生活や季節の移り変わりと密接に結びついており、スロージンはイギリスの文化や歴史を一杯に詰め込んだリキュールと言えるでしょう。

スロージンは日本でも手に入る？

イギリスほど一般的ではありませんが、日本でもスロージンを入手することは可能です。主に輸入酒を扱う専門店やオンラインショップで購入できます。

また、最近では日本の一部のクラフトジンメーカーが、国産のスロージンを製造し始めています。和の素材を使ったユニークな味わいのスロージンも登場しており、日本でもじわじわと人気が高まっているようです。

GORDON'S ジャパンインポートシステム ゴードン スロージン [ リキュール 700ml ]

まとめ

スロージン（Sloe Gin）は、イギリスの豊かな酒文化を象徴する隠れた名酒と言えるでしょう。その独特の味わいは、イギリスの田園風景や歴史、そして人々の暮らしを彷彿とさせます。甘くて爽やかな、でも大人の深みのあるこのお酒は、ジンやウイスキーとはまた違った魅力を持っています。イギリスを訪れる機会があれば、ぜひスロージンを試してみてください。また、日本でも入手可能ですので、イギリスの秋の風味を家でゆっくりと楽しむのも素敵かもしれません。