定番ツアーはもう飽きた?ローカル旅行情報発信サイト「コスパトラベル」

パッケージツアーやガイドブックに頼った旅行に飽きた大の旅行好きの方々向けに、ローカル&コスパの良い旅行情報を集めたポータルサイト

【湖南レトロ餐庁めぐり①】長沙の朝はお茶と米粉から始まる - 東茅街茶館で過ごす市井の時間

記事内にはスポンサーリンクが含まれる場合があります。

長沙といえば、茶顔悦色に代表される新興茶飲ブランドや、SNS映えするモダンな飲食店が注目されがちだ。しかし、この街の本当の魅力は、路地裏に息づく市井の文化にこそある。

近年、長沙では70〜80年代の街並みや文化を再現したレトロ食堂が次々とオープンしている。文和友に代表される大型フードパークから、路地裏の小さな食堂まで、その形態は様々だ。今回のシリーズでは、そうした長沙のレトロ食堂を巡り、この街の「もう一つの顔」を探っていく。

第一回は、2024年9月にオープンしたばかりで瞬く間に長沙の新名所となった「東茅街茶館」。朝の時間帯に訪れ、地元の人々に混じって長沙式の朝食を楽しんできた。

東茅街茶館とは

東茅街茶館は、長沙市芙蓉区の繁華街・黄興路歩行街からわずか一筋入った路地裏に位置する。1952年に建てられた工場の礼堂を改装し、2024年4月から約半年かけて、1000万元以上を投資して作り上げられた空間だ。

コンセプトは「又見長沙」(もう一度長沙に出会う)。70年代から80年代の長沙の市井風景を再現している。5000平方メートルという広大な敷地には70卓以上の木製テーブルが並び、国内最大級の市井老茶館を謳う。

開業からわずか1週間で日均客流が6000人を突破し、現在でも日均1万人近くが訪れるとのこと。平日でも席を確保するのに苦労するほどの人気ぶりだ。

1階には食事エリアとステージ、文創商店が併設され、2階には擂茶博物館がある。不定期で地方劇や相声などの伝統芸能も上演される。

注目すべきは価格設定だ。お茶は8元から、包子は5元、麺類も10〜15元程度、とリーズナブル。しかも全て現場で作られる作りたてを提供している。

朝8時半、路地裏の異空間へ

冬の黄興路歩行街

12月上旬の朝、長沙の気温は10度を下回っていた。黄興路歩行街の喧騒を抜け、東茅街の牌楼をくぐる。狭い路地を進むと、突如として古びた煉瓦造りの建物が目の前に現れた。

細い路地を曲がってアクセスする

竹製のランタンと赤や黄色の提灯が軒先を彩っている。入口付近には既に人だかりができており、朝8時半だというのにこの賑わいだ。外のベンチには、紙コップを手にした中年男性が数人座って談笑している。タバコの煙が朝の冷たい空気に混じっていた。

圧倒される空間、戸惑うシステム

扉を開けた瞬間、その圧倒的な空間の広さに息を呑んだ。天井は驚くほど高く、木の梁がむき出しになった構造がそのまま残されている。

70卓以上の木製テーブルが所狭しと並び、そのほとんどが既に埋まっている。壁には生生しいスローガンと赤い星のマーク、昔ながらの竹椅子、色あせたポスター、ホーロー製の茶碗――細部まで70〜80年代の雰囲気が徹底されている。

問題は注文方法だ。観察してわかったが、どうやらフードコートのようなシステムらしい。茶のカウンター、麺類のカウンター、点心のカウンターがそれぞれ別れており、欲しいものを各カウンターで注文して受け取る仕組みだ。

まずは入口のお茶カウンターへ

入口すぐ左手のカウンターがお茶専門の窓口だった。黒板には手書きで「長沙烟熏茶 8元」「湖南紅茶 8元」「菊花茶 10元」などのメニューが並ぶ。カウンターには、茶葉が既に入った白い陶器のマグカップがずらりとスタンバイされていた。茶館というからには、やはりお茶なしでは始まらない。

茶葉の入ったマグを受け取る。この時点ではまだお湯は入っていない。

せっかくなので、烟熏茶を注文。初めて目にした珍しいお茶だが、どうやら湖南名物なのだそう。スタッフがマグカップを手渡してくれる。席についてからお湯を入れる仕組みだ。

米粉臭豆腐を注文

お茶のマグカップを手に、フロア奥のカウンターエリアへ向かう。

メニューには「原味肉丝米粉 12元」「牛肉粉 15元」「榨菜肉丝粉 10元」「酸辣粉 8元」などが並ぶ。

長沙の朝食といえば米粉だ。原味肉丝米粉臭豆腐を注文。キッチン越しには厨房が見える。大きな鍋で米粉が茹でられ、湯気が立ち上っている。スタッフが慣れた手つきで麺を掬い、湯切りをして丼に盛り付ける。その上からスープをかけ、豚肉の細切りをのせる。

受け取りカウンターへ。熱々の丼が手渡される。受取カウンターの横には調味料コーナーが設けられていた。酢、醤油、ラー油、ニンニクペースト、刻みネギ、パクチー、搾菜、唐辛子ペースト――好きなだけトッピングできる。

臭豆腐は引換レシートを渡された。建物の外に出ると、入口脇に露店のような一角があり、そこで揚げたての臭豆腐を作っていた。大きな鍋に油がグツグツと煮えたぎり、そこに豆腐が次々と投入されている。立ち込める独特の匂い。

引換券を渡すと、揚げたての臭豆腐が紙容器に入れられ、甘辛いタレがたっぷりとかけられて手渡された。

席を確保し、朝食を楽しむ

全ての食事を受け取り、席を探す。朝だというのに、ほぼ満席だ。ようやく空席を見つけた。

フロアの各所に置かれた大きな保温ポットから、マグカップに熱湯を注ぐ。茶葉がゆっくりと開き、立ち上る湯気とともに独特の燻製香が広がった。

周囲を見渡すと、地元の常連客らしき人々で賑わっている。70代くらいの男性二人が相席でタバコを吸いながら談笑している。ある家族連れは包子を頬張り、あるグループは大笑いしながら会話している。

烟熏茶を一口飲む。想像以上に美味しい。燻製香は独特のスモーキーな香りが味わい深い。しかし強すぎず、むしろ茶の甘みと深みを引き立てている。渋みも少なく、朝から飲むのにちょうどいい。体の芯から温まる。

米粉を一口すすってみる。米粉は程よい太さで、つるつるとした食感。スープは豚骨ベースで、あっさりしているが旨味がしっかりしている。細切りの豚肉も柔らかく、朝食にちょうどいいボリューム感だ。湖南グルメは激辛と言われがちだが、辛さを自分で調節できるシステムは有難い。

追加した搾菜の塩気と唐辛子の香りが、全体の味を引き締めている。ラー油のピリ辛さが、朝の眠気を覚ましてくれる。

臭豆腐は外はカリッと、中はトロッとしている。発酵による独特の風味と、タレの甘辛さが絶妙にマッチしている。匂いは癖があるが、味は意外とマイルドで癖になる。個人的に、長沙の黒色臭豆腐は、台湾の臭豆腐よりもかなりマイルドに感じる。

館内の雰囲気に浸る

食事をしながら、館内を観察する。フロアの奥にはステージスペースがあり、舞台には「東茅街大戏台」の看板が掲げられ、両脇に赤い提灯が吊るされている。平日の朝だったため公演はなく、座席として利用されていた。

観客席となるテーブルエリアでは、今も多くの人々が朝食を楽しんでいる。急ぐ様子の人はほとんどいない。お茶を何杯もお代わりし、時折タバコを吸い、笑い合っている。ここは単なる食事の場所ではなく、社交の場なのだろう。

商店での衝動買い

食事を終え、館内を少し歩いてみた。1階の一角に文創商店があった。棚には、様々な種類の茶葉がパッケージされて並んでいる。

先ほど飲んだ烟熏茶があまりに美味しかったので、思わず茶葉を購入することにした。スタッフが茶葉を袋詰めしてくれる。日本に持ち帰って、この長沙の朝の記憶を何度も味わおうと思う。

まとめ:「又見長沙」が意味するもの

東茅街茶館のコンセプト「又見長沙」――この言葉の意味が、訪問を通じて理解できた。

ここで再現されているのは、単に70〜80年代の見た目だけではない。人々がお茶を飲みながらゆっくりと時間を過ごし、作りたての朝食を手頃な価格で楽しむ――そんな長沙の日常そのものが再現されているのだ。

もっとも、初めて訪れる人には注文方法がわかりにくく、混雑時には席を見つけるのも一苦労だ。しかし、こうした点を差し引いても、東茅街茶館は訪れる価値のある場所だと断言できる。リーズナブルな価格で楽しめる長沙の朝食文化、ここでしか味わえない空間、そして地元の人々の日常に触れられる体験がある。

長沙を訪れる際は、華やかな黄興路歩行街だけでなく、ぜひ一筋裏路地に入ってみてほしい。そこには、もう一つの長沙――市井の人々の営みと文化が息づく、温かな長沙が待っている。

また、朝の時間帯に訪れることを強くお勧めする。地元の人々が日常的に訪れる朝の時間こそ、その場所の本当の姿が見えるからだ。一杯の烟熏茶、一杯の米粉、一皿の臭豆腐――そんなシンプルな朝食から、長沙という街の本質が見えてくるはずだ。

東茅街茶館

  • 住所:長沙市芙蓉区定王台街道丰泉古井社区東茅街
  • 営業時間:7:00-21:00
  • アクセス:黄興路歩行街から徒歩5分、地下鉄2号線五一広場駅から徒歩8分
  • 予算:1人20-30元程度
  • 訪問のコツ:朝8〜10時が地元民で最も賑わう時間帯。初めての場合は注文システムに戸惑うので、周囲の人々の動きを観察するとよい。