今やインターネットミームにもなった「カルタゴ滅ぶべし」という大カトーのセリフで知られる古代都市、カルタゴ(Carthage)。歴史に詳しい方なら一度は耳にしたことがあるだろう。紀元前146年、第三次ポエニ戦争の終結と共に、ローマはカルタゴを完膚なきまで破壊し尽くし、未来永劫文明が発展しないようにとダメ押しにその地に塩をまいたと伝えられている。これにより、カルタゴの大地は不毛の地となり、繁栄した都市は歴史の闇に葬られた。しかし、果たしてその逸話は本当に正しいのだろうか?また正しいとするならば、現代のカルタゴの大地は今でも塩っぱいのか?その疑問を解明すべく、私は実際に現地へ足を運び、カルタゴの土を実際になめてみることにした。
カルタゴの塩まき伝説
まずはこの話の背景から少し掘り下げよう。カルタゴはかつて地中海世界に君臨した強大な都市国家であり、古代ローマのライバルとしてその名を轟かせた。しかし、ローマとの三度にわたるポエニ戦争を経て、最終的にカルタゴは滅びる運命を辿る。特に第三次ポエニ戦争において、ローマ軍は執拗な包囲戦の末、カルタゴを完全に破壊し尽くした。この際、ローマの元老院が「カルタゴ滅ぶべし(Carthago delenda est)」という戦意を強調した言葉を掲げ続け、戦争終結後には都市を徹底的に壊滅させ、さらに大地に塩を撒いて農地を不毛化させたと言われている。
この「塩まき伝説」は、カルタゴの歴史に深く刻まれたエピソードとして広く知られているが、実際にどこまで真実なのかは議論の余地がある。歴史学的には、ローマがカルタゴに塩をまいたという具体的な証拠は見つかっておらず、むしろこれは後世に作られた逸話であると考える学者も多い。しかしながら、この伝説が持つ象徴的な意味は、カルタゴがローマに対していかに強大な存在だったか、そしてその徹底的な壊滅がどれほど意図的であったかを如実に示している。
カルタゴの土を実際に味わう—いざ現地へ
そんな歴史を紐解いた後、私はいよいよ現代のカルタゴへと向かった。チュニジアの首都チュニス郊外に位置するカルタゴ遺跡は、今では静かな住宅街の中にひっそりと佇んでいる。当時の栄華を想像するのは難しいが、遺跡の中にはかつての建造物の基礎やローマ時代の浴場跡が点在し、歴史の痕跡を感じさせる。遺跡を巡ること自体も、歴史好きには十分に楽しめるが、今回の私の目的はそれだけではない。カルタゴの土をなめ、その塩度を確かめることだ。
まずはCarthage Hannibal駅近くのお洒落なカフェでコーヒーを飲みながら気持ちを落ち着けるとともに口の中をリセット。さながら、塩土ソムリエの気分だ。その後土を味わうべく、2000年の時を超えて今もなおドーナツ状の輪郭を残すことで知られる円形軍港へと向かうことにした。カフェを出てから港までの道のりは7分ほど。その道中、名もなき古代の遺構がいくつも顔を覗かせ、時代の痕跡を感じることができる。
港はすっかり緑に覆われていたが、ドーナツ型の大地にはパラパラと土が積もっている。古代ローマ軍の思惑と裏腹にすっかり緑化が進んだ光景に早々嫌な予感がしたが、ふと目を凝らすと、足元には乾いた土が広がり、日差しに照らされてどこか白っぽく見える。これが塩の痕跡なのか?期待に胸を膨らませながら、私はその土を指先に取り、舌先にそっと載せてみた。
驚きの結果—カルタゴの土の味は?
実際になめてみると、なんと…ほんのり塩気を感じたのだ!もちろん、これは科学的に証明されたわけではなく、主観的な感想に過ぎない。しかし、乾燥した大地に特有のミネラル分が、どこか塩味を帯びているように感じられた。この感覚が、ローマによって塩をまかれた結果なのか、それとも単に自然の地質に由来するものなのかはわからないが、この体験は私にとって驚きと感動をもたらしてくれた。
実はただの気のせい?現地で聞いた真実
しかし、後日訪れた観光施設で現地スタッフにこの話をしたところ、彼らは一様に微笑んで「それはおそらく気のせいだろう」と教えてくれた。
彼ら曰く、そもそもカルタゴ全域を不毛にするほどの塩を、当時のローマが用意できたとは考えにくい。またたとえ本当に多少の塩をまいたとしても、2000年経った今でも土に塩味が残ることは科学的に不可能だろうというのが彼らの見解だ。私が塩味を感じたのは、単なるプラシーボ効果、もしくは地中海からの風が運んできた微量の海の塩分に過ぎないだろうと言われ、少し恥ずかしくなった。
今更ながら、そもそも私は一般的な土の味を知らない。カルタゴの土をなめて塩っぱいと感じたからといって、それが通常の土と比べて特別に塩分が多いかどうかを判断する基準がないのだ。言うなれば、私の「実験」は、単に私の味覚音痴を露呈する結果になっただけかもしれない。
カルタゴの塩と歴史のロマン
結論として、現代のカルタゴの土は、確かにほんのりと塩気を帯びているような気がしたが、それは単なる錯覚か、もしくは土の中に当然として含まれるミネラル分の範疇を逸さないものだろう。それでも、この体験を通して歴史の重みとロマンを味わうことができた。カルタゴという都市が、今でも人々の心に深く刻まれ、その大地に塩の風味さえも残しているかもしれないという考えには、なんとも言えない魅力がある。
歴史を探る旅では、時にこうした馬鹿馬鹿しい非科学的な検証が、思いがけない驚きや感動をもたらしてくれる。塩をまいたかどうかはさておき、カルタゴの大地を歩き、その一粒一粒に歴史の重みを感じたことは、間違いなく私の旅のハイライトとなった。歴史のロマンと現代の視点を交差させるユニークな体験として、屈強な胃袋を持った旅好きの皆様に、カルタゴの土をなめるという奇妙な挑戦を是非お勧めさせていただきたい。
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